マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例を公開します

2025年10月20日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:なぜ私たちはトラブル事例を公開するのか

ものづくりの現場では、トラブルは決して珍しいことではありません。むしろ、高度な加工技術を追求すればするほど、予期せぬ問題に直面する機会は増えていきます。

私たち榊原工機は、愛知県春日井市で機械部品加工を手がける町工場です。手のひらサイズの小物部品の少量生産や試作開発を得意としており、お客様からは「機械部品加工の駆け込み寺」と呼んでいただくこともあります。

今回、あえてトラブル事例を公開するのは、隠すためではなく、共有するためです。長年の加工経験の中で遭遇してきた様々な問題とその解決策をお伝えすることで、発注を検討されている担当者の方々に、加工現場のリアルな姿を知っていただきたいと考えています。

トラブルを包み隠さず公開することは、私たちにとって技術力への自信の表れです。どんな問題が起きても、それを乗り越えてきた経験があるからこそ、お客様に安心して部品加工をお任せいただけると信じています。

第1章:トラブルを公開することで生まれる信頼関係

最先端設備だからこそ起きるトラブル

当社では、お客様の多様なニーズに応えるため、5軸加工機、複合加工機、ワイヤーカットなど、幅広い設備を揃えています。これらの高度な機械は、複雑な形状の部品を一度の段取りで高精度に仕上げることができる優れものです。

しかし、高機能な機械であればあるほど、トラブルが発生したときの影響は大きくなります。たとえば5軸加工機は、多軸制御を行うため、プログラムや切削条件の設定が非常に複雑です。わずかな設定ミスや工具の摩耗が、加工面全体の品質に影響を与えてしまうことがあります。

複合加工機についても同様です。旋削とマシニングを一台でこなせる便利な機械ですが、トラブルが発生すると複数の工程が同時に滞ってしまう可能性があります。

このような高度な設備を日常的に使いこなし、トラブルが起きても迅速に対応できるノウハウを持っていることが、私たちの強みです。

透明性が解消する品質認識のギャップ

発注担当者の方が加工現場の実態を知らないと、どうしても「品質認識のギャップ」が生まれてしまいます。図面上では当たり前に見える厳しい公差や特殊な材質の指定が、実際の加工現場ではどれほど難易度が高いのか、想像しにくいものです。

たとえば、焼入れ鋼への追加工。これは非常に硬い材料を削る作業で、工具への負担が大きく、加工時間も長くなります。こうした背景を知らずに見積もりを見ると、「なぜこんなに高いのか」と感じられるかもしれません。

トラブル事例を共有することで、発注担当者の方には加工の難しさや現場のリスクを具体的に理解していただけます。その結果、過剰な品質要求を避け、コストと品質のバランスが取れた現実的な基準を一緒に考えることができるようになります。

私たちは、「見積依頼のコツ」や「品質認識のギャップ解消法」など、業界知識を積極的に発信しています。トラブル事例の公開も、そうした情報提供の一環として位置づけています。

第2章:機械別に見るトラブルの傾向と私たちの対応

旋盤加工で起きやすいトラブル

旋盤加工は主に丸物部品の切削に使用される基本的な加工方法ですが、だからといってトラブルがないわけではありません。チャックの把握ミス、工具の折損、切りくずの絡みつきなど、様々な問題が起こりえます。

先日、特急案件で旋盤加工とマシニング加工の両方が必要な部品の依頼がありました。ところが旋盤加工中にトラブルが発生し、工程が遅れそうになったのです。

そのとき、私たちのエンジニアはすぐに判断しました。「すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組み直そう」と。頭を旋盤のように高速回転させて、加工法を瞬時に再設計したのです。

このような迅速な工程組み替え能力は、長年の経験から培われたものです。一つの機械がダメなら別の機械で、一つの方法がダメなら別の方法で、常に最適解を探し続けます。これが多能工のエンジニアとしての私たちの強みです。

マシニング加工で直面する課題

マシニング加工は、平面加工や穴あけ、複雑な輪郭加工に使われる汎用性の高い加工方法です。しかし、その分トラブルの種類も多岐にわたります。

工具パスの計算ミスによるワークへの干渉、熱による寸法変化、切削振動によるビビリマークの発生など、注意すべき点は数多くあります。ビビリマークとは、加工中の振動によって加工面に現れる波状の模様のことです。これが出てしまうと、製品の精度や外観に悪影響を及ぼします。

複雑な形状の部品では、固定治具の設計ミスやプログラムの不備が直接的な不良につながります。トラブルが発生したとき、私たちはまず「固定治具は適切か」「プログラムに問題はないか」と根本原因を突き止めます。

たとえば、ステンレスや真鍮といった材料は、それぞれ特性が異なります。ステンレスは粘りがあって切りくずが絡みやすく、真鍮は比較的切削しやすいですが欠けやすいという特徴があります。こうした材料特性に応じて切削条件を最適化することが、トラブルを防ぐ第一歩です。

当社で手がけているSAKAKI PUTTERのような削り出し製品では、こうした細かな調整の積み重ねが、最終的な製品品質を左右します。

5軸加工機・複合加工機の深刻なトラブル

5軸加工機や複合加工機は、加工能力が非常に高い反面、トラブルが発生すると深刻な事態になりやすい機械です。

軸のキャリブレーションエラー、複雑な工具交換時のミス、長時間稼働による機械の熱変位など、これらは大きな寸法の狂いを引き起こす原因となります。キャリブレーションとは、機械の各軸の位置や角度を正確に調整する作業のことです。

5軸加工機の最大の特徴は、複雑な形状を一度の段取りで仕上げられることです。しかし、それは同時に、途中でトラブルが発生するとワーク全体が使えなくなるリスクも意味します。

ある日、5軸加工機で複雑な部品を加工していたとき、工具の摩耗を見落としてしまいました。通常なら気づくはずのサインを、他の作業に追われていて見逃してしまったのです。結果、加工面に微細な傷が入り、その部品は作り直しになりました。

この経験から、私たちは工具管理をより厳密にし、定期的なチェック体制を強化しました。トラブルは辛い経験ですが、それを次に活かすことで、より高い品質を実現できるようになります。

こうした高度な機械を使いこなすには、繊細な調整技術と豊富な経験が欠かせません。私たちは日々の作業を通じて、これらのノウハウを蓄積し続けています。

第3章:トラブルを教訓に変える「クリエイティブなものづくり」

経験が育む危機回避能力

私たちのエンジニアは、「考えて動く多能工」です。過去のトラブル事例から学び、特定の加工条件や材料でどのような問題が起きやすいかを常に頭に入れて作業しています。

部品製作の依頼があると、エンジニアは瞬時に様々な選択肢を検討します。「材料は角から削ろうか、丸から削ろうか」「機械は5軸か複合加工機なら穴加工まで1台でできるけど、今日は2台とも埋まっているな」といった具合です。

この判断力は、一朝一夕で身につくものではありません。何度もトラブルを経験し、それを乗り越えてきた積み重ねがあってこそです。

特に試作開発では、まだ誰も経験していない加工に挑戦することが多く、トラブルはつきものです。私たちは、ガレージブランドや個人ブランドの試作開発を積極的に支援していますが、そこで培った経験が、通常の量産品の品質向上にも役立っています。

たとえば、新しい素材での試作を依頼されたとき、過去の似た材料での失敗経験を思い出し、「この材料は冷却が重要だから、切削油の量を増やそう」といった事前対策を取ることができます。これが、トラブルを未然に防ぐ力になっているのです。

納期トラブルへの対応力

機械トラブルは、納期の遅延に直結します。お客様にとって、納期を守れるかどうかは品質と同じくらい重要な要素です。

私たちは、「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」という評価をいただくことがあります。これは、トラブル時でも一社完結で迅速に対応できる体制があるからこそです。

複数の機械を保有しているため、一つの機械でトラブルが起きても別の機械でカバーできます。また、多能工のエンジニアがいるため、工程を柔軟に組み替えることも可能です。

急ぎの案件では、メールでのやり取りよりも電話での直接対話が効果的です。実は、社長はお話し好きなので、お急ぎの場合はメールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします。

口頭でのコミュニケーションなら、状況を正確に把握し、その場で最適な対応策を一緒に考えることができます。これは、トラブル発生時や特急案件において特に重要です。

過去には、金曜日の午後に「来週月曜日までに必要」という依頼を受けたこともあります。通常なら難しい納期でしたが、週末に臨時で対応し、なんとか間に合わせることができました。こうした柔軟性も、小回りの利く町工場ならではの強みです。

第4章:トラブル事例から学ぶ発注担当者へのアドバイス

見積もり内訳とリスクコストの関係

トラブル事例を知ることで、見積もりに含まれる「リスクコスト」の意味を理解していただけると思います。

特に試作や小ロット生産では、トラブルによる手戻りが生じた場合、再度機械の段取りを行う必要があります。この段取り費が、大きな追加コストになることがあります。

段取りとは、機械に材料や工具をセットし、加工できる状態にする作業のことです。量産なら一度の段取りで大量に作れますが、試作や小ロットでは一個あたりの段取り費の比重が高くなります。

だからこそ、少量・試作の単価は高くなる傾向があります。これは決して高く請求しているわけではなく、実際にかかるコストを反映した結果なのです。

また、5軸加工機やワイヤーカット加工が必要な複雑な形状は、加工時間が長くなるだけでなく、トラブル発生時の損害も大きくなります。見積依頼の段階でこのリスクを共有できれば、公差を少し緩めるなど、コスト削減に向けた建設的な議論が可能になります。

国内加工と海外調達の違い

私たちは、中国調達のリアルなトラブル事例についても情報発信しています。海外調達では、品質の不安定さや納期遅延といった問題が発生しやすい傾向があります。

もちろん、コストを抑えるために海外調達を検討することは合理的な選択です。ただし、トラブルが発生したときの対応力という点では、国内の信頼できる業者との取引に大きなメリットがあります。

言葉の壁がなく、すぐに電話で相談でき、必要なら直接工場を訪問して打ち合わせができる。これらは、トラブル解決のスピードに直結します。

価格だけで判断するのではなく、トータルでの安心感や対応力も含めて検討していただくことをお勧めします。

技術用語を理解することの重要性

発注担当者の方が基本的な技術用語を理解していると、加工業者とのコミュニケーションがスムーズになります。

たとえば、「公差」は許容される寸法の誤差範囲のことです。「±0.01mm」という指定は、基準寸法から0.01mm以内の誤差なら許容されるという意味です。この公差が厳しければ厳しいほど、加工の難易度は上がります。

「熱変位」は、加工中の熱で機械やワークが膨張し、寸法が変化する現象です。長時間の連続加工では、この熱変位を考慮した調整が必要になります。

こうした用語を理解していると、見積もりの内訳を見たときに「なぜこの項目が必要なのか」が分かります。また、図面を作成する際も、現実的な公差設定ができるようになります。

私たちは「今さら聞けない」シリーズとして、基礎的な加工知識も発信しています。ぜひ参考にしていただき、発注担当者としての知識を深めていただければと思います。

おわりに:トラブルは成長のための教訓

私たち榊原工機がトラブル事例を公開するのは、技術力に自信があるからです。どんな問題にも対処してきた経験があるからこそ、お客様に安心していただけると信じています。

トラブル事例から学べる教訓は、大きく三つあります。

まず、高度な加工技術にはリスクが伴い、それを乗り越えるには多能工の知恵とクリエイティブな工程設計が必要だということです。

次に、複雑な案件や緊急時には、メールではなく電話で直接対話することが、納期遵守と品質確保の鍵になるということです。

そして、試作段階で高い精度を目指し、品質基準を明確にすることが、量産時の安定につながるということです。

私たちは、あたたかい町工場の環境で、日々これらのトラブルを教訓に変え、お客様のご依頼に常にベストパフォーマンスで応えるための知恵を磨き続けています。

もしあなたが、部品加工における複雑な課題や納期に困っているのであれば、ぜひ私たちに相談してください。「機械部品加工の駆け込み寺」として、きっとお役に立てるはずです。

クリエイティブにものづくりをする。これが私たちのモットーです。